見沼たんぼの土壌特性
見沼たんぼの地中はどうなっているのか?太古の昔は、東京湾が見沼まで深く入り込み、淡水の沼地に、そして江戸時代は新田開発された見沼たんぼの土壌はどのような姿なのか?
埼玉県農林部さいたま農林振興センターの協力のもと、見沼たんぼに広がる土壌の秘密を解き明かすため 、野菜を育てる見沼たんぼ中にある、こばやし農園の畑の一部を実際に掘り返してみた。
【こばやし農園での土壌調査】
埼玉県さいたま農林振興センター 農業支援部 技術普及担当 川目 匠 氏
この下がどのような土壌が広がっているかを確かめるために、土壌断面調査を行いました。
土壌断面調査とは、ほ場に縦1m×横1m×深さ1mの穴を掘り土壌断面の形態や諸性質を調査するものです。視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚の五感を発揮して土壌の特徴を調べます。作物の根が張っている表面の土だけでなく、その下層の状態を観察することで、土壌中での水の動きや、作物の根の張り具合を確認することができ、作物を生産する上で重要な情報を得ることができます。
調査地は埼玉県さいたま市緑区大字宮後にある、こばやし農園の場所です。北側は芝川、南側は見沼代用水西縁が東西に走っている、さいたま市の見沼たんぼ地域のほ場です(図1)。
こばやし農園ほ場の土壌断面を作製した後、出てきた土壌の特徴ごとに4層に分けました(図2)。1、2層目の土壌の色は茶褐色、3、4層目は黒色で4層目は地下水で水浸しでした。3、4層目の黒色の土は見沼地域の他のほ場でもよく見られる土壌で、地元の農家さんは「スクモ層」や「マコモ層」と呼んでいます。地域によっては「スクモ」というのは湿地や湖畔などに分布する植物の遺体の分解が不完全な状態で堆積した土壌の1つである泥炭土のことをそう呼ぶ場合があり、もとが湿地である見沼地域でも同様な意味で捉えることができると考えられます。この泥炭土は有機物のきわめて多い土壌です。もともとが湿地、地下水位が高い、河川が近い等の環境の影響から、このような土壌がこの地域に分布しているのではないかと考えられます。
土壌調査の結果について
【土壌診断】
この土壌が、どのような化学的・物理的特徴を持っているのかを調べるために、土壌の化学性・物理性の分析を行いました(表1、2)。
・化学性の診断結果からいえる特徴
土の酸性の程度を表すpHの値は、埼玉県が出している土壌診断基準によると普通畑の適正pHは6.0~6.5あるのに対し、調査地のほ場のpHは4.3~4.5と基準値と比較して低く、強い酸性を示しました。また肥料分がどれだけ残っているかを示す電気伝導度(EC)の値は土壌断面の下層に いくほど高い値となっており、石灰・苦土・硝酸態窒素の値は3層目の黒色の土壌の層で一番高い値となっていました。
・物理性の診断結果からいえる特徴
土壌を乾燥した際の充填具合を表す乾燥密度の値が、3層目および4層目は他の層と比較すると低い値となっていました。これが意味するのは3層目と4層目の土壌は湿っているうちは土壌が膨張していますが、乾燥によって土壌が収縮することを示します。つまり、見沼たんぼの特徴ともいえる黒色の土壌は乾湿による体積の変化が起こりやすいことがこの結果よりわかります(図3)。
【土壌の特徴】
以上の診断結果から、見沼たんぼ地域の土壌の特徴として、黒色の土壌の層が見られる 、また、黒色の土壌の化学性や物理性の特徴(強い酸性 、乾燥による体積の収縮が大きい等)から、この黒い土は泥炭土の可能性が高いと考えられます。この「スクモ層、マコモ層」と呼ばれている黒色の土壌は、表面の土壌と比較して、石灰や苦土の塩基類や硝酸態窒素量が高い傾向にありました。一方で、この黒色の層は酸性が強く、また乾燥による体積の収縮が著しい特徴があり、見沼たんぼ地域において野菜の栽培を行っていくうえで、課題となる特徴であるといえます。
・こばやし農園土壌断面模式図
・表1 こばやし農園 土壌診断の結果(化学性)
・表2 こばやし農園 土壌診断の結果(物理性)
・図3 乾燥による層位別に採取した土壌の収縮の様子(乾燥後は、容器と土壌の間に隙間がみえている。)
乾燥前の土壌 | 乾燥後の土壌 |
左から1層目、2層目、3層目、4層目 |